Blackmagic(以下BM)
ATEM 1M/Eを
先輩よりお借りし試用する事ができたので、普段現場で使う事の多いPanasonicのAW-HS50(以下HS50)や下位モデルTelevisionStudioとの比較をしつつの感想を。ただし、想定している主たる使用環境は、Ustreamを初めとするライブ配信現場なので、通常の収録現場の場合とは若干異なった見方になる点をご了承頂きたい。
試用環境は、Windows/32bit/XPor7。ソフトは試用開始直前にリリースされた新しいバージョンの2.1(Mac用もあり)。ソフトやマニュアル(英語)は、
サポートページから。
本体の他に付属品は音声・タイムコード用ブレークアウトケーブルと特殊コネクタ付ACアダプタ。一緒に写っているACコードは付属しないらしい・・
ではまず機器の接続から。
ATEMのHDMI MultiViewOutと手許に有ったPCモニターをHDMI-DVIケーブルで接続。
するとOut of Rangeの文字、どうやらATEMのHDMI Outは本体に設定したビデオフォーマットのものが出力されるらしい。
つまり、本体のビデオフォーマットを1080に設定したら、出力も同様の解像度となるため、フルHDを表示可能なPCモニターか、通常のHDMI対応モニターが必要となり、それより小さい解像度のPCモニターを接続したからと言って、それに合った表示ができるわけではないようだ。
その点、HS50のDVI出力は使い易い。15インチ程度の安価なPCモニターでもしっかりとマルチピーが可能だ。
ところでATEMのHDMI出力に市販のテレビを接続したらどうなるのだろう。やはりアンダースキャンエリアは見切れてしまうのだろうか・・。いずれまた検証してみたい。
ATEMの出力は非常に多彩で、HD-SDIが3系統(プレビュー・プログラム・マルチビュー)、HDMIが2系統(プログラム・マルチビュー)、SD-SDI、コンポジット、コンポーネントが各1系統(プログラム)。その他にAUX(オグジリアリ/予備)としてSDIが3系統あり、そのソースはソフトにより選択が可能。また、SD-SDIやコンポジットアウトからは、常にダウンコンパートされた画も出力されているので、現場でカメラマン用に返しのモニターを用意したい時などには従来のSDモニタが使用できる。このダウンコンパート出力機能は、HS50・TelevisionStudio共に無い機能で、重宝しそうだ。
USB3.0に関しては、現状、本体設定の為のPC接続に使うのみ。その場合は2.0接続でOK。将来的にはAUX出力・UltraScope機能が割り振られるとの事で非常に楽しみではある。
続いてATEMとコントローラーの役目をするPCとを接続するために、ソフトをインストール。
「ATEM Setup Utility」や「ATEM Software Control」等がインストールされる
Setup UtilityはATEMのIPアドレス変更・ファームアップに、Software ControlはATEMのコントロール・メディア入替・機能設定に使用。
ATEMとPCの接続はイーサネット。元々ATEMには192.168.10.240のプライベートアドレスが指定されているので、LAN環境が同じアドレスグループであれば、イーサケーブルで接続次第、PCからATEMを認識する。もし、アドレスの変更が必要な場合には、Setup Utilityを使いUSB経由(USB2.0でも可)で本体のアドレスを変更すればよい。なお、ルーター経由でも直接続でも接続可能で、ケーブルもストレートケーブルでOK。
続いてカメラや音声入力の接続。
カメラ入力は、SDIが4系統、HDMIが4系統、コンポーネントが1系統(HDMI1とコンポーネントは排他)の計8系統。SDIとなると業務機以上のカメラでないと付かないが、HDMIであれば民生機にも付いている昨今、4系統ものHDMI入力があるのは大きな利点。HS50のようにSDI入力しか持たないスイッチャーの場合には、
このようなコンバーターを使ってHDMI出力をHDSDIにコンバートしなくてはならず、コストも掛る上に機材も増えてしまう。
ただ、HS50にあってATEMにないのがDVI入力。これはPCをつなぐ時にとても重要。HDMI入力があれば問題ないのではと思われるかもしれないが、ATEMのHDMI入力は、先に書いた出力と同様に本体のフォーマットに合った解像度のものしか受け付けない。つまり、本体のフォーマットが1080にセットされている場合にはフルHDを出力できるPCでないと入力できない。後述するが、ATEMは動画ファイルの本体内再生は現状ではほぼ無理で、外部入力する必要があり、その際にPC入力をスムーズに行えるかどうかというのは結構大事だったりする。ちなみに、フルHDパネルではないLet's NoteをHDMI接続し、外部接続を1920*1080に設定しても入力不可。フルHDパネルを持った別PCは入力可。フルHDパネルでないMacをDVI-HDMI接続し、外部接続を1920*1080に設定したら入力可。と、環境により違うので、これに関しては改めて検証が必要だろう。
音声入力は、付属のブレークアウトケーブルを本体に接続した上で行う。
単純なキャノン・ラインレベル接続の2チャンネルアナログ入力で、SDIにエンベッドされた音声やアナログ入力をルーティング・ミキシングするような機能はない。マイクアンプも付いていないので、外部で作られた音をそのままライン入力する感じだろうか。入力された音声は、SDIやHDMI出力にエンベッドされる。実はこの部分はHS50に無いとても有益な点で、音声入力を持たないSDI/HDMI入力のみの記録媒体やコンバーターであっても映像と音を送る事ができる。(音声のディレイを調整したりといった事は一切できないが、後日、実際に現場で使用した限りでは問題となるような音声のズレは無かった。)また、アナログ出力には入力がそのままスルーアウトされる。なお、TelevisionStudioはアナログ入力を持たずデジタル入力のみ。
以下の写真はBlackmagicのHPから拝借した1M/Eの接続図。
接続に関してはこの辺りにして、本体写真をいくつか。
本体は非常に薄く、ヒートシンクの部分(黒色の部分)を入れても6センチ程、幅は19インチラック規格で50センチ弱、高さは9センチ弱。ただ、ラックマウント用に作られているためか剥き出しのヒートシンクがそのまま持ち運ぶには少々邪魔で、曲がり易く、刃物のように鋭いので注意が必要。下手するとスパッと切りかねない。
電源コネクタ周り。
「SWITCHER CONTROL」は、PCや外部コントローラーとの接続に使うイーサネットソケット。「AUDIO IN/OUT」にはオーディオ・タイムコード用ブレークアウトケーブルを接続。電源は3ピンの特殊なコネクタでしっかりと固定できる。なおATEMには電源スイッチが無い。
続いて、前述のソフト、Software Controlについて。そのSoftware Controlには各機能に合せて、「Switcherタブ」「Mediaタブ」「Settingタブ」と3つのタブがある。
まずは、Switcherタブ。別売の外部コントローラーを模したものになっていて、同様に操作できる。
ただ、現状、キーボードショートカットに登録できるのは1-8のカメラインプットとA-Bバスの切り替え(CUT/AUTO)だけなので、随所にマウスでの操作が必要になり、この操作感が、ATEMをソフトコントロールで使えるモノとするのか、はたまた40万以上する外部コントローラーがないと使えないモノとするのかの判断の分かれ道になるのだろう。
Switcherタブの右端部分で各キーの詳細設定をするのだが、実はSoftware Controlの画面サイズが、1379*674に固定されているため、各設定を展開していくにつれスクロールしながらの作業が多くなり面倒だったりする。
画面サイズが固定である事は、画面の小さなPCをコントローラー代わりに使用する場合にも不具合を来す。下の画像は画面サイズが1280*800のLet's noteでのもの。右端の設定部分が切れてしまっている。
Switcherタブは右端の設定部分以外が3つのセクションに分かれていて、左から順に「Mix Effects1」「Transition Control」「Downstream Key」となっている。
Mix Effects1ではカメラの切替を、Transition Controlではトランジションの切替やアップストリームキーの切替を、Downstream Keyではダウンストリームキーの切替をするのであるが、アップ&ダウンストリームキー数がHS50と比較して多いのが嬉しい。
HS50ではアップストリームキーとPinP、ダウンストリームキーの3つが同時に使えるので、例えばグリーンバックで抜いた画にPinPとロゴを載せるといった事ができるのだけれど、ATEMの場合には、ダウンストリームキーが2つあるので、さらにテロップを載せる事も可能になる。
ATEMでのPinPはアップストリームキーの中のDVE(デジタルビデオエフェクト)を使って行うので、4系統あるアップストリームキーをフルに使えば、最大4つもの画面を入れ込めそうな感じもするが、このDVEは1系統でしか使えないため、入れられる子画面は1つとなる。DVEの設定でPinPに縁取りや影付けも可能。
なお、TelevisonStudioはこのDVEを持たないらしい。つまり、PinPといった事ができるのかできないのか、少々気になる。
少し話は逸れるが、Ustream配信をするソフトにProducerProやWirecastといったソフトがあり、これらは、ベース画面のサイズを変えた上でPinPをする事も可能なのだが、そういった芸当は残念ながら、HS50でもATEMでもできない。
2系統あるダウンストリームキーは単純なルミナンスキー。ただ、ちょっと複雑な話になるが、FillとKeyがそれぞれ選択でき、PNG画像のように透明部分を持ったものは、その部分をKeyとして認識してくれるため、複雑な画像の合成も奇麗にできる。(ただ、半透過な部分はうまくグレースケールにはならなかったりとまだまだ使いこみが不十分なため記述が不正確な可能性もあり、各自、検証願います。)
続いて、Mediaタブでは、画像や動画といった素材の管理と、Switcherタブにある2つのMEDIAボタンへの関連付けができる。
現バージョンでサポートされる画像フォーマットはPNG・TGA・BMP・GIF・JPEG・TIFF、動画は単に連続した画像がサポートされるだけで、QuickTimeもAVIも不可。音声ファイルはWAV・MP3・AIFF。
Mediaタブは、さらに2つのセクションに分かれていて、左側がファイル選択エリアで右側が「Media Pool」。Media Poolには32枚の画像用区画と2個の動画・音声用区画があり、左の選択窓から選ぶ事もできれば、ドラッグ&ドロップでソフト外から直接取り込む事もできる。各素材の上から右クリックで2つのMEDIAボタンへの関連付けができる。2個の動画・音声用区画に取り込めるのは、動画であれば計180フレームのモノ。30フレーム/秒とすると、たったの6秒。つまり、動画といってもいわゆる映像クリップではなく、アニメーションロゴのようなものしか取り込めない。計と書いたのは、2つのクリップで180フレームを分けあうため。
1フレームの大きさの制限や音声クリップの容量に関しては、マニュアルにも詳細な記載が無い為、実際どの程度のクリップが取り込めるのかは不明。
ところで、何故、このように取り込める素材の量に制限があるのかというと、各素材は、PCから直接再生されるわけではなく、ATEM本体のメモリに一旦書き込まれるため。つまりATEM本体のメモリがそれだけの容量しかないという事で、これは、裏を返せば、ソフトやファームのアップデートではどうにもならず、PCからの直接再生が可能とならない限り、ATEMから映像クリップを再生する事は事実上無理という事になる。まぁ単にスイッチャーとして考えればできなくて当たり前なのだが、PCでコントロールできるATEMにそれができないというのは何だか残念な気がしてならない。
さらに頭を悩ますのが、この本体のメモリが揮発性メモリであり、電源供給が断たれれば、全て書き込んだものは消えてしまうという事。そうなると、また改めてSoftware Control/Mediaタブから指定・書き込みをしなければならず、一刻を争うような現場では、正に冷汗ものである。
最後に、Settingタブでは、「Switcher Settings」と「Multiview Setting」の各セクションで、それぞれカメラソース・フォーマットの指定とマルチビューモニターの設定ができる。
Switcher Settings内のダウンコンパート設定では、サイドクロップ・レターボックス・スクィーズか選択できるので、各種モニターやダウンコンパート録画に対応できる。
マルチビューモニターの設定は、8つの子画面と、プレビュー・プログラムの2つの大画面の配置が変えられるだけで、HS50のように分割数そのものを変える事はできない。8つの子画面には、各カメラ映像の他、各種ソースを割り当てられる。
Software Controlに関してはここまでにして、続いてPhotoShopプラグインについて。
ATEM用のソフトをインストールすると、同時にPhotoshop用プラグインもインストールされる。マニュアルではCS5が必要となっているが、CS3でも一応動いている。
プラグインがインストールされるとPSから直接MediaPoolへ静止画素材を書き出せるようになり、同時に2つあるMedaiPlayerのいずれかに関連付けるかどうかの指定もできる。
ただ、この注目のプラグイン。単に静止画を送るだけであれば問題ないが、テロップのようなKey情報を必要とする画像を送る場合には、背景レイヤーを黒にした上で、さらにアルファチャンネルを作らないといけない。つまり、PNGデータを取り込んだ時のように透明レイヤーをKey情報として認識してはくれないわけだ。この点が改善され、透明レイヤーを正確にKey情報として認識してくれると、非常に操作性が良くなるのだが・・。(CS5での挙動を確認できていないため、記述が不正確な可能性もあり、各自、検証願います。)
最後になるが、気になった点やまとめなどを箇条書きに。
● 試用中に、PCとATEMのリンクが切れ、ATEMを見失い、再度IPアドレスを指定し直すという事態が何度か起きた。その際、スイッチングアウトの映像が途切れたりといった致命的なトラブルは無かったものの業務に使用するには不安を残す形となった。
しかし、その後、別のネットワーク環境で試した場合には、コントロールPCが同じであるにも関わらず、一切そのようなトラブルは出なかった。その結果から察するに、外部ネットワークにも接続しているルーターをハブにしていたのがいけなかったのかもしれない。
安全を期するためには、閉じたネットワーク内で使用するか、PCとATEMを直接接続した方が良いのかもしれない。
● Software ControlのFileメニュータブに「SAVE」があるにも関わらず、常にグレーアウトしていて、設定を保存できない。
つまり、Software Controlに各種設定を施しても、現状、保存ができないため、ソフトを閉じてしまうとリセットされてしまう。本体メモリーが揮発性な上に、設定も保存できないとなると正直かなり不安。この点に関しては早急にどうにかして貰いたいものだ・・。
●● まとめ
PCでコントロールするという目新しさとその価格設定から過大な期待をしてしまいがちだが、欠点と思える部分を受け入れられるかどうかを冷静に判断しなくてはいけないだろう。ただ、その欠点が問題にならなければ、コストパフォーマンスは非常に高いと言えるのではないだろうか。
このブログを執筆中にも新しいバージョン2.5のソフトがリリースされ、アップデートも短期間に行われている。ソフトの進化次第では、さらに魅力あるモノになると思う。
[ 追記 / 実戦投入記 ]
● 2011年8月23日 配信 Konak &
UstTodayチームATEMとコントロールPCはイーサケーブルで直接続。カメラはZ5Jに民生機のCX-560V。いずれもBlackmagicのMiniConverterを使用してHDMI-HDSDI変換しATEMに入力。音声はミキサーを介してアナログバランス入力。音声がエンベッドされたHDSDI出力をRolandのVC-50HDを使用してHDVに変換し配信PCに入力。WirecastでUstream配信。ATEMでダウンコンパートされたコンポジットアウトを分配し、カメラマンと演者用の返しモニターへ。
ヒートシンクが付いているとはいえ、ATEMはかなり熱くなる。そこで、念の為、PC用ファンを使用して冷却。効果絶大だった。
一度もPCとATEMのリンクは外れる事はなく、ノントラブル。
PCコントロールではスイッチングのみ。テロップ等は配信PCのWirecastを使用。
● 2011年8月30日 配信:
HD USERS業務配信ではないが、ATEMを使用した配信だったので参考までに。
スイッチング用PCとテロップ/MediaPool操作用PCの2台を外部ネットワークに繋がったルーターを介してATEMに接続。このイーサ接続を通して作業毎にPCを分散できる事は、実はATEMの大きな利点。コントロールソフト自体は無料・Win/Mac両対応なので、必要な数のPCさえあればOK。映像素材再生用には、MACのDVI出力を変換しATEMのHDMIに入力。音声はミキサーを介してアナログバランス入力。音声がエンベッドされたHDSDI出力をBlackmagic Decklink SDIが搭載された配信兼スイッチング用PCに入力。FlashMediaLiveEncoderを使用しUstream配信。
ATEMは特に冷却は行わなかったが、第3部までノントラブル。スイッチング担当者に普段のスイッチャーとの使い心地を尋ねたところ、PCコントロールでも特に使い辛くはなかったとの事。
[ 参考リンク・書籍 ]
【小寺信良の週刊 Electric Zooma!】第523回:ライブ映像製作に革命? 「ATEM 1M/E」ビデオサロン 9月号記事連動ATEM 1M/E Production Switcherの機能と操作 by 岡英史[追加参考画像]
上述のコンパネ画像を店頭にあるMacBookAirの11インチと13インチでそれぞれ表示してみました。
正確ではないと思いますが、こんな感じという事で。11インチに問題なく収まっています。